俺や
気付けば随分と遠いとこへ来たもんや。
学ぶ事とは知る事や。俺は知りすぎてしまった。
しかしそんな俺でもわからんことがあった。
「どうすれば学者になれるのか」や。
調べても調べても、藁を掴む事すら出来へんかった。
学者になる為に巴術の道を極めつつある俺が、学者になる事が出来へん。とんだピエロや。
「……こんな姿、あいつらには見せれえな…」
「…気分転換に水銀でも作るか…」
その時やった。向こうから見覚えのある図体が視界に入ってきたんや。
「やんさん何やってるんすか」
「なんや坪井か。いや、少し考え事をな」
「やんさん程の方がっすか?」
「おいおい、俺だって人間なんやで?確かに無敵ではあるけどな。」
「でしょうね。」
「そういや風の噂で聞いたで、ナイトになったんやって?おめでとうな。」
「どもっす」
「…坪井よ、俺はまだ学者になれてないんや。一体どうすれば学者になれるか、皆目見当もつかんのや…もし何か知ってたら…」
…っと、何を考えてるんや俺は。俺が分からない事を坪井が分かる筈もないんや…俺とした事が、相当まいっちまってるみたいや。
「いや、悪い。坪井に聞いたってわからんよな。忘れてくれや。」
「……ッスワ」
「ん?」
「確かに俺なんかじゃ、やんさんでも知らないような事について何か役立てるとは思えないっすわ…でも」
「……?」
「学者ってのは…何かを成したから学者とか…そういうんじゃないと思うんっすわ。学ぼうとして…実際いろんなことを学んでいって…そういう姿勢を持つ人が、学者と呼ばれるに相応しいと思うんすわ」
「坪井…」
「そういう意味じゃ、俺からしたらやんさんは、もう学者なんすわ。もしやんさんを学者じゃないなんて言う輩がいたら…俺は許せないっすわ。」
意表をつかれた感覚やった。
「知ろうとする行為…それそのものが、学者が学者たる所以…」
俺は難しく考えすぎてたのかもしれん。坪井のシンプルな理論は俺に確かな気付きを与えた。
その時やった
「それが答よ。」
「!誰や!?」
「伏せるんっすわー!!」
「…貴様は…」
「妖精っすわ!!」
「聞いた事あるで。学者だけが所有する事を許された忠実なしもべ…フェアリー。」
「流石、既に私のことを知ってるなんて、一流なだけはあるわね。」
「は、初めて見たっすわ!」
「でも、今回はその一流さが足を引っ張ったみたいね。そう、学者になる為の最後の試練とは、気付く事。自分は既に学者なのだと、その境地に踏み込んでるのだと、気付く事だったのよ。」
「成るほどな…そんな簡単に学者になれる筈がねぇって、心のどこかで俺は枷をつけてたわけや…とうの昔に、超えてた壁やのにな。」
「っすわ…」
「坪井!」
「なんでしょ」
「力が溢れてきやがる…早速、試しにいこうぜ。俺の新たなる力…『ガクモンノススメ』をよ。
「いっすよ」
「来な!シャイニングヤン号!」
ピュールリッ!
「クエエエエエエエエエエエ!!」
「坪井!北や!角度43の方角を見ろ!」
「えっ?…ま、まさかやんさん!」
「ああ…丁度いい実験台を見つけたぜ」
「む、無理っすわ!ひくんすわやんさん!」
「心配いらねえ…力が溢れてきやがる、俺に何ができるか、何を成せれるかが分かる…これが、学者…学ぶ者。今の俺は誰にも負ける気がしねえ」
「…分かったっすわ…やんさんがそこまで言うんなら、付き合うんすわ!」
「おう!!」
こうして俺はめでたく学者になれたわけや。
後で知った話やが、このでけえカニは、十年前にリムサロミンサの黒渦団が総力を結集し、甚大な犠牲と引き換えに、海へ追い払った魔物らしい。
不運にもこの日、この場所へ来ちまったみたいやな。
おっと、不運ってのは、もちろんこのカニの方やがな。
翌日、俺らはエオルゼア新聞の一面を飾る事になっちまった。「伝説のカニを撃退。たった二人のカニ鍋パーティ」って見出しでな。
その時笑えたのが、坪井のコメントや。あいつ、言うに事欠いて、こんな事言いやがったんや。
「カニって高級食材だったんすね」
ってな。